現代社会は、変化が激しく、ストレスを感じる場面も多くあります。
そんな中で、困難な状況や逆境に直面しても乗り越え、成長していく力「レジリエンス」はますます重要となっています。
この記事では、レジリエンスとは何か?という基本的な知識から、レジリエンスを高めるための方法などを紹介します。 ストレスの多い中でも、自分自身の「折れない心」を育むことは心身ともに健康的に生きる為に必要な技術かもしれません。
レジリエンスとは何か?

レジリエンスとは、英語の「resilience(はね返り、弾力)」に由来する言葉で、「回復力」や「弾性(しなやかさ)」を意味します。
心理学の分野では、深刻な困難や脅威、トラウマ、悲劇、あるいは大きなストレス源に直面したときに、うまく適応し、跳ね返すプロセスと結果を指す概念として用いられています。
レジリエンスが高い状態は「レジリエント(である)」と表現され、レジリエントな人物は逆境に直面しても諦めることなく、克服できる可能性が高いとされています。特に現代のビジネスシーンでは、予期せぬ変化やプレッシャーの多い環境において、ストレスを成長の糧に変え、柔軟に対応していくために不可欠な能力として注目されています。
レジリエンスが発揮されるメカニズムについては、「危険因子(課題やストレスの原因)」と「保護因子(乗り越える要因)」のバランスによって決まると考えられています。
このバランスを理解し、状況によってバランスを調整することで、効果的にレジリエンスを高めることが可能となります。
「メンタルが強い」との違い
「レジリエンスが高い」状態は、一般的に言われる「メンタルが強い」状態とはすこしニュアンスが異なります。
一般的に「メンタルが強い」状態と表現される場合、「困難な状況でも動じない」「感情を表に出さない」「弱音を吐かない」といったイメージが連想されます。
これは、どちらかというと打たれ強さ、我慢ができる、という固定的な強さに焦点が当たっています。
一方で、「レジリエンスが高い」状態とは、困難な状況にあって、一時的に落ち込んだりネガティブな感情を経験したりしたとしても、そこから「回復して適応していく」ことを指します。
自分の感情(ポジティブ・ネガティブ含む)を認識し、適切に感情を扱った上で必要に応じて他者に助けを求めることができる柔軟性に焦点が当たっています。
つまりレジリエンスは、単に「精神的なタフ」であるだけでなく、状況に応じて柔軟に対応し、困難の中でも学び、成長する力があるという、多面的な状況を指すのです。
レジリエンスに関するよくある誤解3選
レジリエンスという言葉は心理学やビジネスなど様々な文脈で用いられ、またまだ浸透しきっていない言葉です。そのため、「レジリエンス」という言葉に対して、誤解がある場合も多いです。
ここでは、レジリエンスについてよくある誤解を紹介します。
「レジリエンスが高い人は常にポジティブだ」
実は、レジリエンスはネガティブな感情を否定したり、存在しないように扱うことではありません。 むしろその逆で、ポジティブもネガティブも含めて自然な感情を持ちながら、困難やストレス下から回復し、適応していく力です。
無理にポジティブを装うのではなく、「現在の自分の感情」をありのままに受け止め、建設的に対処することが重要です。
「レジリエンスは生まれつきの才能だ」
レジリエンスは先天的な特性(=生まれつきの才能や能力)ではなく、学習や経験を通じて後天的に強化できるスキルです。
2010年の研究によると、レジリエンスは資質的要因と獲得的要因に分けることができ、特に獲得的要因は日記やジャーナリング、コミュニケーションなどによって高めることができるとされています。
つまり、思考パターン・行動・感情の調整方法などを学ぶことで、誰でもレジリエンスを高めることが可能です。
「レジリエンスが高いということは、自分だけでなんでも対応できることだ」
レジリエンスについて学んだり、知ろうとしたりしている人ほど「レジリエンスが高い人は弱音を吐かないし、他人に頼らない」と考えてしまうことがあります。
助けを求めることは弱さではなく、レジリエンスの能力の一つの側面とも言えます。
信頼できる人に頼ったり、サポートを求めたりすることは、困難な状況を乗り越える上で非常に有効な戦略です。
一人で抱え込まず、適切な社会的サポートを活用することもレジリエンスのスキルです。
あなたのレジリエンス度を図る方法
自分自身のレジリエンスの傾向を知ることは、スキルとしてレジリエンスを高めていく上での第一歩となります。
以下に、レジリエンスが高い人と低い人の一般的な特徴を挙げます。これらはあくまで傾向であり、全ての人に当てはまるわけではありませんが、自分がどの程度当てはまるかを確認して参考にしてください。
レジリエンスが高い人の特徴
レジリエンスが低い人の特徴
レジリエンスを高める方法

レジリエンスは、意識的なトレーニングや日々の心がけによって後天的に高めることができるスキルです。ここでは、レジリエンスを高めるための方法をいくつか紹介します。
自己理解を深める
自分の思考の癖、価値観、感情が動きやすいポイント、ストレスを感じやすい状況などを客観的に把握することで自己理解を深めます。
日記・ジャーナリングや、信頼できる人によるフィードバック、心理テストや自己分析ツールを活用したりするのも有効です。
たとえば、MBTI診断などを自分の性格などを知るきっかけに使うなどもおススメです。
自己効力感を育む
「自分ならできる」「きっとうまくいく」という自己効力感は、レジリエンスにとって重要な要素です。
初めは簡単な目標でも良いので、それを達成する経験を積み重ねましょう。小さな成功体験が少しずつ自信につながります。
思考パターンを見直し、柔軟な視点を持つ
ネガティブな感情に囚われそうになったら、一度立ち止まり、自分の考え方の癖に気づくことが大切です。
物事を多角的に捉え、より建設的で前向きな視点を持つように意識しましょう。例えば認知行動療法のABCDE理論などは、出来事に対する考え方や受け取り方を変える練習に役立つと言われています。
感情と上手に付き合い、コントロールする
怒りや不安などのネガティブな感情に気づき、それらに振り回されず適切に処理する方法を学ぶことが重要です。
感情のコントロールが苦手だと感じている人も、いくつかのテクニックを身につけることで、少しずつ上手に対処できるようになります。例えば、マインドフルネスやリラクゼーション技法などはアンガーマネジメントなどにも用いられ、感情に対して冷静に付き合うスキルを得ることができます。
怒り・不安などの感情に対する応急処置は、以下の方法が有名です。
- 6秒ルール
- 深呼吸・マインドフルネス瞑想
- 感情のラベリング
こういったテクニックは、すぐに効果が出るものではありません。特に感情はいきなり現れるもので、テクニックを使う暇もなく怒りや悲しみに捕らわれることもあります。
感情とうまく付き合うときは、焦らず、日々の生活の中で少しずつ意識して取り組んでいくことが大切です。自分に合った方法を見つけ、感情と上手に付き合っていくスキルを育てていきましょう。
レジリエンスの土台作りとしての身体の健康
十分な睡眠、バランスの取れた食事、適度な運動といった基本的な生活習慣を整えることは、心身の安定と共に、レジリエンスの土台となります。
まずは、質の高い睡眠が重要です。睡眠によって疲労回復や認知機能の維持を行うため、レジリエンスを高める・維持するために必要な強力な土台となります。
基本的には、毎日同じ時間に寝起きすることを心がけて体内時計を整えましょう。成人の場合、一般的に7~9時間の睡眠が推奨されます。ただし、これはクロノタイプなどによって変わってくるため、夜型や朝方など、自分の特性をベースにして調整を行ってください。
次に、バランスのとれた食事と定期的な運動を取り入れましょう。この2点は内側から身体を作る重要な要素です。
古代ローマの名言にも「健全なる精神は健全なる身体に宿る」という言葉があります。レジリエンスを高めるために、健全な肉体を作ることもまた必要です。
一般的な内容にはなりますが、食事はバランスの取れたものを心掛ける必要があります。自分の体調や体質と相談しながら、タンパク質、炭水化物、脂質、ビタミン・ミネラルなど栄養バランスを加味した食事を摂取しましょう。
また、定期的な運動も取り入れると、脳の活性化や認知機能の向上にも役立ちます。身体づくりが目的ではないのでジムで徹底的に絞ったり、過度なトレーニングを行う必要はありませんが、週に2時間~3時間ほど時間を作って、ヨガやウォーキング、スポーツなどを行うことがおススメです。
専門家のサポートを活用する準備
いくらレジリエンスが高くても、何もかもを一人で解決することはできません。
セルフケアだけでは難しい場合や、より専門的なサポートが必要だと感じた場合は、専門家の力を借りることも有効な手段です。
特にカウンセリングやメンタルサポートは、特別なものではなく、心の健康を保ち、より良く生きるための選択肢の一つです。
深刻な状態になる前に、日常の小さな不調や悩みの段階で相談してみましょう。そうすることで、サポートが必要になったときに頼る相手もできますし、専門家に話を聞いてもらい、気持ちを受け止めてもらうだけでも、安心感が得られたり、心が軽くなったりすることがあります。
また、一人で悩んでいると主観的に物事を見てしまいがちですが、カウンセラーと対話することで、問題を客観的に捉え直し、新たな気づきや解決の糸口が見つかることもあります。
民間のカウンセリングルーム・相談機関やクリニック、会社にお勤めの方は福利厚生として職場カウンセリングを受けられることもあるため、利用してみても良いかもしれません。
レジリエンスは誰にでも必要なスキルの1つ
変化の激しさが高まる現代において、レジリエンスは心身ともに柔軟に、自分らしさをもったまま生きていくために不可欠なスキルです。
レジリエンスは生まれ持った才能ではなく、トレーニングや適切なサポートによって誰でも高めることができます。
この記事で紹介した基本的な知識やレジリエンスの高め方、そして専門家のサポートの活用方法などを参考に、あなた自身のレジリエンスを育んでいきましょう。
最初の一歩として、まずは自分の感情や思考のパターンに気づくことから始めてみませんか。そして、小さな成功体験を積み重ねながら、少しずつレジリエンスを高めていきましょう。