【社会人向け】アクティブリスニングの基本と簡単な練習法3選

ココロをほどく

社会人として働いていると、日々様々な場面で対話を行います。
オフィスでの日常的なやりとり、リモート会議での意見交換、1on1ミーティングでの本音の対話など、ビジネスの現場では「正しく話を聞く力」が、仕事の成果や人間関係の質を大きく左右します。

ビジネスにおける多くの誤解やすれ違いは「聞いているつもり」から生まれています。 「部下や上司の本音を引き出せない」「クライアントとの信頼がいまひとつ」「会議で結論がずれてしまう」こういったとこはビジネスにおいて良くあります。このような課題の背景にあるのは、「アクティブリスニング」の欠如の可能性が高いです。
この記事では、アクティブリスニングの基本と簡単な練習法についてわかりやすく解説します。

アクティブリスニングとは?

アクティブリスニングとは、日本語では「積極的傾聴」とも呼ばれる聴き方の技法です。 1950年代に、アメリカの心理学者カール・ロジャーズが開発した概念で、話をただ「聞く」のではなく、「能動的に関わって聞く」姿勢を重視します。

ロジャースは、アクティブリスニングの基本となる3つの要素を提唱しました。それは「無条件の肯定的関心」、「共感的理解」、「自己一致」です。

まず、「無条件の肯定的関心」とは、相手の立場や考え方に関係なく、その人をありのままに受け入れる姿勢を指します。例えば、部下の意見が自分の考えと異なっていても、すぐに否定せずに「なるほど、そういう考え方もあるんですね」と受け止める態度です。これは、相手の存在そのものを尊重し、ラベリングしたり評価をせずに向き合うことを意味します。

次に「共感的理解」は、相手の感情や状況を、相手の立場に立って理解しようとする努力や姿勢です。例えば、クライアントが「このプロジェクトは本当に大変だった」と話した時、「私も大変なプロジェクトを経験したことがあります」と自分の経験に置き換えるのではなく、「その大変さ、もっと詳しく教えていただけますか?」と相手の視点から理解を深めようとする態度です。

最後の「自己一致」は、聞き手自身が自分の感情に誠実であることを意味します。これは単に「自分に正直である」ということだけでなく、その誠実さを相手との間でも保つことを指します。例えば、相手の話に納得できない部分があっても、「それは難しいですね」と曖昧に返すのではなく、「その部分については私の考えと少し異なりますが、もう少し詳しくお聞かせいただけますか?」と率直に伝えることです。

この3つの基本要素を軸として、従来の「黙って話を聞く」という聴き方ではなく、「会話に積極的に関わりながら聞く」ということをするのが特徴です。

あまりよくない聞き方の例(やってしまいがちな聞き方)

話の聞き方は、人それぞれ異なります。あまり意識せずに社会人になった方も多く、体系的に聞き方を学ぶ機会がなかったためにやってしまいがちな「あまりよくない聞き方」も存在します。例えば、以下のような「聞き癖」があると、相手は「話しても意味がない」と感じてしまいだんだんと上手く話を聞くことができなくなるなど、コミュニケーションに問題が起こり始めます。

話の途中で割って入る

例えば、話の途中で「それってつまり…」と自分の解釈を挟み込んでしまうことはありませんか?解釈を語り始めると、相手の思考の流れを遮ってしまいます
また、相手の話に気になる点が出て、話の途中で「でも、それって…」と反論を始めると、相手は「自分の話を最後まで聞いてもらえない」と感じてしまいます。
さらに、「それ知ってる!」と自分の知識を披露したくなる衝動にかられることもありますが、これも相手の話を中断させる原因となります。

これらの行動は、一見すると会話を盛り上げようとする意図があるように見えますが、実際には相手の話を十分に理解する機会を奪ってしまうことになります。

すぐ自分の話にすり替える

相手の話を聞いている最中に、つい「私も同じような経験があって…」と自分の話に持っていってしまうことがよくありませんか?また、相手の話を聞いてすぐに「それ、私の場合は…」と自分の経験と比較を始めてしまうことも。
さらに、話の流れを無視して「それより、私の話を聞いて!」と話題を変えてしまうことも、実はよくある聞き方の癖です。

これらの行動も、「共感を示そう」という積極的な意図があるように思えますが、実際には相手の話を十分に理解する機会を奪ってしまうことになります。 特に、相手が真剣に話している時や、重要な内容を伝えようとしている時にこのような聞き方をしてしまうと、相手は自分の話がしたかったのに、あなたの話を聞かなければならない状況になったと感じてしまいます。

無表情・無反応

現代でよくやってしまいがちなのがこの無表情・無反応です。
スマホに目を落としたまま、適当に「ああ」「うん」と生返事を返すだけの態度は、相手に「本当に聞いているの?」という不信感を与えてしまいます
特にリモート会議などでは、画面越しに表情が固まったまま、まるでロボットのように相づちも打たずに黙って聞いているだけでは、相手は自分の話が伝わっているのか不安になってしまいます。適度な相づちや反応がない、このような態度は、一見すると「静かに聞いている」ように見えますが、実際には相手の話に対する興味や関心が欠けているように映ってしまいます。

相手の言葉をそのまま繰り返すだけ

コミュニケーションで信頼を得るための技法として有名な「ミラーリングテクニック」を使う場合、それが逆効果になっていることがあるかもしれません。 相手の話に対して「大変でしたね」と表面的な共感を示したり、相手の言っていることをそのままオウム返しするだけでは、本当の理解にはつながりません。また、「なるほど」と軽く受け流したり、「そうですね」と同意するだけで会話を終わらせてしまうのも、相手の話を深く理解しようとする姿勢が感じられません。
このような表面的な反応は、相手の話に対しての関心が伝わらず、「私の話を真剣に聞いてくれていない」という印象を与えてしまう可能性があります。

これらの聞き方の癖は、相手に不信感を抱かせてしまいます。特にビジネスの場面では、聞き方の癖によって信頼関係の構築が妨げられたり、チームの生産性や創造性が低下したりする原因となることも少なくありません。

アクティブリスニングの技法とコツ

言語的コミュニケーション(バーバルコミュニケーション)における2つの方法

オープン・クエスチョン

アクティブリスニングにおいて、最も効果的な質問方法の一つが「オープン・クエスチョン」です。 これは「はい」「いいえ」で答えられない質問形式で相手に質問することにより、豊かな情報を引き出すことができます。

例えば、あなたが上司の場合、部下が「このプロジェクトがうまくいかない」と相談してきたときに、「うまくいかない原因に関して、あなたは何だと思っている?」と問いかけてみましょう。こういった「はい」「いいえ」で答えられない質問を投げかけることで、単なる問題の報告ではないより深い分析や考察を促すことができます。
また、「その状況で、あなたはどのように対処しようと考えている?」などと質問をしてみることでは、相手の思考プロセスを整理することを手伝い、相手の中にある具体的な解決策を導き出すための助けをできます。

オープン・クエスチョンの特徴は、相手に対して自由な表現の機会を与えることです。 「それについて、もう少し詳しく教えてもらえますか?」という問いかけは、相手の話をより深く理解するためのきっかけとなります。このような質問は、単なる情報収集以上の効果があり、相手の思考を整理し、会話をしている双方にとって新しい視点を見出すきっかけとなります。 実は、オープン・クエスチョンは脳の認知処理を促進し、より深い思考を引き出すことが研究でわかっています。

パラフレーズ(言い換え)

もう一つ、言語的コミュニケーションにおいての技法で「パラフレーズ(言い換え)」があります。
これは相手の話を自分の言葉で言い換えて確認するという技術で、単なるオウム返しとは異なります。

例えば、あなたが部下の場合、上司が「最近のプロジェクトで、チーム内のコミュニケーションがうまくいっていない」と懸念を示していたとします。そのとき、「コミュニケーションがうまくいってないんですか」とオウム返しするのではなく、「つまり、チームメンバーとの意思疎通に課題を感じているんですね」と、話の本質を捉えながら言い換えることで、相手に対してより深い理解を示すことができます。

パラフレーズの効果は、内容の確認だけに留まりません。
相手の話を整理して言い換えることで、「私の話を真剣に聞いてくれている」という安心感を相手に与え、信頼関係を築くことができます。また、「今の話を整理すると、〇〇ということですよね」という形で相手に質問しながら確認することで、相手も自分自身の考えを整理する機会を得ることができます。

この技術は特に、複雑な問題や感情的な話題を扱う際に効果を発揮します。 例えば、クライアントが「このプロジェクトの進め方に不安を感じている」と話した場合、漠然とした「不安」という問題を「つまり、プロジェクトの方向性や進捗状況について、より明確な情報が必要だと感じられているということですね」と、言い換えて表現することで、「そうなんだ、具体的には…」「いや、情報よりも…」と、相手側は自分の意見や立場を表明しやすくなり、より建設的な対話を促すことができます。

非言語的コミュニケーション(ノンバーバルコミュニケーション)で大事な3つの要素

ノンバーバルコミュニケーションは、実はコミュニケーションの大半を担う重要な要素です。メラビアンの法則によれば、対人コミュニケーションにおいて相手に与える印象や感情は「言語情報7%」「聴覚情報38%」「視覚情報55%」だといわれていますので、言語以外のおよそ90%の部分を占めることになります。

表情・相づち・うなずき

「聞いている」という姿勢を相手に伝えるために、表情や相づち、うなずきなどの要素は非常に大きな役割を果たします。

まず、自然な表情で共感を表すことは、相手の話に対する理解・関心を伝える最も良い方法の一つです。 表情のやり取りは「ミラーニューロン」と呼ばれる神経細胞を活性化させ、共感と理解を促進することがわかっています。これは、相手の表情を見ることで、私たちの脳が自動的にその感情を理解し、共感するメカニズムが働くためです。 例えば、同僚が難しい課題に直面していることを話している時、真剣な表情で耳を傾けることで、「あなたの話をまじめに受け止めています」というメッセージを伝えることができます。

また、適度な相づちとタイミングの良いうなずきは、会話のリズムを作り出します。気持ちの良い相づちは、相手の話を促す効果もあります。
「うんうん」「なるほど」といった相づちは、単なる「聞いていますよ」という合図ではなく、相手の話に対する理解や共感を表明します。特に、相手が感情的な話題を話している時は、このような非言語的な反応が、「今、私の話を真剣に聞いてくれている」と感じさせる要因となります。

リモート会議やオンラインでのコミュニケーションでは、表情や相づちの重要性がさらに高まります。 画面越しの会話では、相手の表情や反応が伝わりにくいため、いつもよりも表情を豊かにし、相づちやうなずきを活用することが重要です。カメラの位置を適切に調整し、相手の目を見て話を聞く姿勢を示すことで、オンラインでも効果的なアクティブリスニングを実現できます。

声のトーン・反応

声のトーンとはどういうこと?と思うかもしれません。実は、「なるほど」「そうなんですね」といった相づちの言葉も、声のトーンによって伝わる印象が大きく変わります。
同じ「なるほど」という言葉でも、堅さのある声で言うのと、相手の感情に寄り添った柔らかい声で言うのでは、相手に与える印象が全く異なります。特に、相手が感情的な話題を話している時は、その感情に合わせた声のトーンを心がけることが重要です。これは、演技のように感じるかもしれませんが、「自分の気持ちや理解を相手に示す」ために必要な要素です。

声のトーンの使い分けは、状況に応じて適切に行う必要があります。
例えば、相手が成功体験を話している時は、明るく前向きな声のトーンで「それは素晴らしいですね」と反応することで、達成感を共有できます。一方、課題や困難について話している時は、落ち着いた声のトーンで「それは大変でしたね」と共感や理解を示すことで、相手の気持ちを受け止めることができます。

リモート会議や電話でのコミュニケーションでは、表情や身振り手振りが伝わりにくいため、声のトーンが感情を伝える重要な手段となります。特に耳からの情報に敏感になるため、相手は自分のしている話とちぐはぐなトーンで相づちを打たれたり、反応を返されると困惑してしまいます。

姿勢・アイコンタクト

アクティブリスニングにおいて、姿勢とアイコンタクトもまた重要です。姿勢の中でも「適切な距離感での向き合い」が特に重要で、相手に「あなたの話を聞いています」というメッセージを伝えることができます。「あなたの話を受け入れる準備ができています」という開放的な姿勢を取ることで、相手の話しやすさはかなり変わります。具体的には、腕を組まず、相手の方に体を向け、適度に前傾姿勢を取ることで、より積極的な聞き手の姿勢を示すことができます。

また、アイコンタクトは、コミュニケーションの質を大きく左右します。
相手の目を見て話を聞くことで、より深い理解と共感を示すことができます。アイコンタクトは脳内のオキシトシンの分泌を促進するとも言われ、目を合わせることで私たちの脳は自動的に信頼関係を構築するメカニズムがあります。
ただし、過度な凝視は相手に圧迫感やストレスを与える可能性があるため、適度なアイコンタクトを心がけることが重要です。例えば、話の重要なポイントでは目を合わせ、相手が考えを整理している時は少し視線を外すなど、自然なアイコンタクトのリズムを作ることが効果的です。

アクティブリスニングのために日常でできる練習法

アクティブリスニングは、日々意識的な練習をしていくことで誰でも身につけることができるスキルです。日常的に実践できる簡単な練習法を3つ紹介します。

聞き役「5分」トレーニング

まずは、最も基本的な練習法として聞き役「5分」のトレーニングがあります。 これは、自分の話を一切せず、相手の話を遮らずに5分間聞き続けるというシンプルな練習です。一見簡単そうに思えますが、実際にやってみると、「それって…」「待って…」と、相手の話の途中で自分の意見を言いたくなる衝動を抑えることが意外と難しいということに気づくはずです。

この練習におけるアクティブリスニングのコツは、「相手の話に集中し、自分の考えや意見を一旦脇に置くこと」です。
例えば、家族や友人との日常会話の中で、意識的に「聞き役」に徹する時間を作ってみましょう。練習として相手に話してもらうのは相手もプレッシャーを感じたりすることもあるので、相手が話し始めた時に、「とりあえず5分だけ何も言わずに話を聞こう」と意識するだけでもOKです。 最初は5分でも難しいと感じるかもしれませんが、徐々に時間を延ばしていくことで、より深い傾聴力が身についていきます。

「要約と確認」の練習

次に、傾聴による理解力を高めるための「要約と確認」の練習があります。
これは、相手の話を聞いた後、その内容を自分の言葉で要約し、「こういう理解で合っていますか?」と確認する練習です。

この練習の効果は、単に内容を理解するだけでなく、相手の話の本質を捉える力を養うことです。パラフレーズ(言い換え)の練習にもなります。
例えば、部下からの報告を聞いたあとに「つまり、Aという課題に対して、Bという対応を考えているということですね」と報告の内容を要約し、相手に確認することで、より正確な理解と信頼関係を築くことができます。ビジネスにおいては、この要約と確認を癖づけると手戻りやミスの防止にもつながることがあります。

感情を汲み取る練習

より高度な練習として「感情を汲み取る練習」があります。これは、相手の話の背景にある感情を想像し、それを言葉にする練習です。この練習は相手によっては不快に感じることもあるので注意しながら日常に取り入れるのが良いと思います。家族や親しい友人の話を聞くときにやってみるのも良いでしょう。

例えば、友人が「最近、プロジェクトが忙しくて…」と話した時、単に「大変だね」と返すのではなく「その忙しさに少し疲れを感じているように聞こえたけど、どうかな?」と、感情に焦点を当てた確認をしてみましょう。この練習によって、相手の感情をより敏感に察知し、適切な共感を示すことができるようになります。

ただし、感情をどのように表現するかは人それぞれ。同じ言葉でも疲れを感じている場合と、やりがいを感じている場合など言い方・表情・状況・その人のパーソナリティなどかなり多くの要素に左右されます。
そのため、完璧に心を読み取ろうとするのではなく、相手の言葉の裏にある感情はなんだろう?と丁寧に見つめることが大事です。

聞き方でビジネスでの成果が変わる

アクティブリスニングは才能ではなくスキルです。誰しも「聞き方の癖」はありますが、意識的な練習を重ねることで、きちんとした聴き方を身につけることができます。

聞き役「5分」トレーニングから始めて、要約と確認の練習、そして感情を汲み取る練習などに取り組むことで、相手の話をより真剣に、積極的に聞くことができるようになります。 そうすることで、相手に安心感を与え、より深い信頼関係を築くことができます。

会話における「聞き方の質」が、信頼や成果、チーム力を左右します。 アクティブリスニングのスキルを磨くことで、より良い人間関係と、より高い成果を生み出すことができるでしょう。ぜひ練習法を取り入れて挑戦してみてください。

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